Introduction

娘を殺された元夫婦と、犯行時17歳だった加害者の女性———。
癒やしようのない苦しみに囚われた3人の葛藤を見すえ、
魂の救済、赦しという深遠なテーマに真っ向から挑んだ問題作
 7年前に高校生だった娘の恵未をクラスメートに殺害されて以来、酒に依存して現実逃避を重ねてきた樋口克のもとに、裁判所からの通知が届く。懲役20年の刑に服している加害者、福田夏奈に再審の機会が与えられたというのだ。大切なひとり娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子とともに法廷に赴く。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情はすれ違っていく。やがて法廷では夏奈の口から彼女が殺人に至ったショッキングな動機が明かされ、澄子は裁判から身を退くが、怒りの感情に駆られた克はある行動を起こすのだった……。

 未成年が引き起こした殺人事件、すなわち少年犯罪を題材にした『赦し』は、被害者遺族の元夫婦と服役中の加害者の女性それぞれの葛藤を見すえたサスペンスフルなヒューマン・ドラマである。最初の裁判で加害者の夏奈には懲役20年の重刑が課せられたが、事件の事実認定の正当性をめぐる再審公判が決定したことで、3人の心は激しく揺らぎ出す。殺人者は刑務所で罪を償うべきだという“正義”に固執する被害者の父親、克。一刻も早く過去を拭い去りたいと願う元妻の澄子。そして獄中で自らが犯した罪の重さを自問自答する夏奈は、それぞれが7年前の悪夢のような記憶に苛まれている。

 本作はあくまでオリジナルのフィクションだが、実際の少年事件からもインスピレーションを得た物語は、このうえなく生々しい問題提起をはらんでいる。私たちの現実社会における同様の裁判では、愛する者を失った被害者遺族の心情に寄り添った厳罰主義がしばしば叫ばれるが、少年法は加害者の更生を重んじる理念を掲げている。ごく最近でも、民法上は成人となった18歳~19歳を新たに“特定少年”と位置づける改正が行われるなど、少年法をめぐる議論は絶えることがない。

 被害者遺族と加害者双方の視点を取り入れた本作は、罪と罰という根源的な主題を鋭く探求しながら、観る者の感情にずしりと訴えかけてくる。癒やしようのない責め苦を負った者は、その罪や悲しみを乗り越えて生き直すことができるのか。人と人は互いにわかり合い、憎むべき相手をも受け入れることができるのか。魂の救済、赦しという深遠なテーマに真正面から挑んだ問題作が誕生した。

日本在住の気鋭のインド人監督アンシュル・チョウハンの最新作。
法廷の内外での激しくもサスペンスフルに揺らめく感情を体現した、
尚玄×MEGUMI×松浦りょうの迫真のアンサンブル
 本作のメガホンを執ったアンシュル・チョウハンは、2011年に来日してアニメーターとして活躍し、自主制作の『東京不穏詩』(18)で実写長編映画デビューを果たしたインド人の気鋭監督だ。長編第2作の『コントラ』(19)では、エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でグランプリ、北米最大の日本映画祭ジャパン・カッツで第1回大林賞を受賞。国内外で注目度が高まっているチョウハン監督が、寓話的なファンタジーだった前作から作風を一変させ、重厚でリアリスティックな語り口を披露した『赦し』は本格的な裁判劇でもある。法廷における裁判官、弁護士、検察官、証人のやりとりを臨場感たっぷりに描出。その息詰まるスリリングな展開に、登場人物たちが抱く不安、迷い、痛みをシンクロさせた濃密な映像世界から目が離せない。

 怒りと憎悪の呪縛に囚われた主人公、克を演じるのは、フィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ監督と組んだ主演作『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(21)が記憶に新しい、尚玄。元妻の澄子に扮するのは、第62回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞した『台風家族』(19)『ひとよ』(19)などで多彩なキャラクターを演じてきたMEGUMI。深い喪失感を共有する者同士でありながら、対照的なベクトルで裁判の成り行きを見つめる元夫婦の複雑な思いを表現した。さらに、澄子の現在の夫を演じるオリエンタルラジオの藤森慎吾、裁判長役を毅然と体現した真矢ミキがドラマに厚みを与えている。

 そして、夏奈役に抜擢された松浦りょうのキャスティングも見逃せない。映画デビュー作『渇き。』(14)などで独特の存在感を示してきた新進女優が、本作の成否を左右すると言っても過言ではない難役に挑戦。殺人というあまりにも重い十字架を背負った夏奈の不安定な心模様を、繊細な揺らぎを湛えた瞳とたたずまいで伝えるその迫真の演技は、本作における最大の発見としてあらゆる観客を驚嘆させるだろう。

Story

7年前に娘をクラスメートに殺害されて以来、現実逃避を重ねてきた樋口克(尚玄)のもとに、裁判所からの通知が届く。懲役20年の刑に服している加害者、福田夏奈(松浦りょう)に再審の機会が与えられたというのだ。ひとり娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子(MEGUMI)とともに法廷に赴く。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情はすれ違っていく。やがて法廷では夏奈の口から彼女が殺人に至った動機が明かされていく…。

Director

監督プロフィール

アンシュル・チョウハン
| Anshul Chauhan
1986年北インド生まれ。 陸軍士官学校で訓練を受け、大学にて文学士を取得した後、 アニメー ターとして2006年からパプリカスタジオ (現:テクニカラー・インド) にて働き始め、ニコロ デオンの 『Farm Kids』 や 『Back at the Barnyard』、 国際的な受賞歴もある 『Delhi Safari 』などのプロジェクトに携わる。 また、 BBC テレビ 『Everything's Rosie』 においては、チー ムリードを務める。2011年に東京へと拠点を移し、最初に働いた株式会社ポリゴン・ピク チャーズでは、エミー賞を獲得したディズニーXD 『トロン:ライジング』 や 『超ロボット生命 体トランスフォーマープライム』などに携わる。その後、 株式会社オー・エル・エムにてバン ダイナムコ『パックワールド』 の制作に関わり、 株式会社スクウェア・エニックスへ移ると、ファイナルファンタジーXV』 や 『キングズグレイブ: ファイナルファンタジーXV』、『キン グダムハーツ3』そして『ガンツ:オー』、『ファイナルファンタジーVII リメイク』 など、 多 岐主要プロジェクトに関わる。 アニメーターとして日本で働く傍ら、 自主制作への情熱も芽生 えた彼は、2016 年に Kowatanda Films (コワタンダ・フィルムズ)として活動を始め、これま でに短編映画3作と長編映画2作を完成させる。 中でも長編2作目となった 『コントラ』は、 国際的な認知度が高く、 ジャパン・カッツの大林賞受賞を含め、 世界各国の映画祭にて様々な 受賞を遂げている。
FILMOGRAPHY | 過去監督作品
長編映画: 『コントラ』、 『東京不穏詩』
短編映画: 『Leo's Return』 『石鹸』、 『川口4256』、 『愛の残骸』 SELECTED ANIMATION PROJECTS / 過去に関わったアニメーション作品
長編映画:『キングズグレイブ: ファイナルファンタジーXV』 『ガンツ:オー』、 『Gladiators of Rome』、『Delhi Safari』
インゲームモーション&イベントシーン: 『ファイナルファンタジーVII リメイク』、 『ファイ ナルファンタジーXV』
テレビシリーズ: 『超ロボット生命体トランスフォーマープライム』、 『Transformers Robots in disguise』、 『パックワールド』、 『トロン:ライジング』
監督コメント
少年犯罪。 特にそれが殺人となると、 加害者に対してどういった処罰が適切なのか、そしてそ れを取り巻く人々の感情の表現を追求したく、 この映画を制作するに至りました。 未成年に対 する処罰は成人よりも軽くなるのが一般的ですが、 被害者遺族に対する心の痛みはどの殺人事 件においても変わりません。 私自身、 これに対してどういった処罰が正しいのか、きちんとし た答えが見出せずにいます。 本作では、加害者と被害者両方の葛藤をそれぞれ描くため、立場 の違う3人を主軸に物語を展開させています。 全てフィクションではありますが、いくつかの要 素は実際に起こった事柄からインスピレーションを受けています。

Cast

PROFILE >
尚玄
PROFILE >
MEGUMI
PROFILE >
松浦りょう
PROFILE >
藤森慎吾
PROFILE >
生津徹
PROFILE >
成海花音
and
PROFILE >
真矢ミキ
尚玄|SHOGEN
1978年生まれ、沖縄県出身。
大学卒業後、バックパックで世界中を旅しながらヨーロッパでモデルとして活動。2005年戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』(中井庸友監督)でデビュー。三線弾きの主役を演じ、第20回東京国際映画祭コンペティション部門にノミネートされる。2008年ニューヨークで出逢ったリアリズム演劇に感銘を受け、本格的に芝居を学ぶことを決意し渡米。現在は日本を拠点に邦画だけでなく海外の作品にも多数出演している。2021年主演・プロデュースを務めた映画『義足のボクサーGENSAN PUNCH』(ブリランテ・メンドーサ監督) が釜山国際映画祭にてキム・ジソク賞を受賞。2022年同映画祭でAsia Star Awardを受賞。
MEGUMI
1981年生まれ、岡山県出身 。
映画『孤狼の血』(18/白石和彌監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、『ひとよ』(19/白石和彌監督)、『事故物件恐い間取り』(20/中田秀夫監督)、『大怪獣のあとしまつ』(22/三木聡監督)、『極主夫道ザ・シネマ』(22/瑠東東一郎監督)、『AFTERGLOWS』(23/木村太一監督)などに出演。第62回ブルーリボン賞にて助演女優賞を受賞。
近年ではプロデュース作品に力を入れており、ドラマ「完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの」などがある。
松浦りょう
Ryo MATSUURA
徳島県生まれ。
中学高校時代に、バンドを通して自身の感情を表現していたが、高校卒業後、歌を辞めたものの、表現の道を究めようと俳優を志すことを決める。映画「渇き。」で女優デビューを果たし、その後、ミュージックビデオやCMにも出演しながら、2019年には大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に出演の他、映画「眠る虫」(監督:金子由里奈)では主演を務め、MOOSIC LAB2019 長編 部門グランプリを獲得。2021年には映画「となりの井戸」(監督:上杉哲也)で主演を務めている。
藤森慎吾
Shingo FUJIMORI
1983年生まれ。
中田敦彦とオリエンタルラジオを結成し、2004年にNSC(吉本総合芸能学院)へ。同年、リズムネタ「武勇伝」で『M‐1グランプリ』準決勝に進出して話題となり、デビュー当初よりブレイク。バラエティ番組を中心に活躍する。2016年、自身がボーカルを務める音楽ユニットRADIO FISHによる楽曲『PERFECT HUMAN』でNHK紅白歌合戦にも出場。芸人としてだけではなく、俳優、歌手、声優などその活動は多岐にわたる。2020年、自身のYouTubeチャンネルも開設し、人気を博している。2021年より吉本興行所属から独立し、フリーとなる。
生津徹|Toru KIZU
1970年10月3日生まれ、山梨県出身。 1991年東京YMCA英語専門学校を卒業後、1994年ロンドンのマウントビュー・アカ デミー・オブ・シアター・アーツに1年間留学。 主な 出演作として、 テレビ「警視庁アウトサイダー」「PICU」「イチケイのカラス」「遺留捜査」 映画「心魔師」(18/今野恭平監督)「向こうの家」(19/西川達郎監督) 周防正行監督にも常連で『それでもボクはやってない』(07)、『終の信託』(12)、『カツベン!』(19)など。 5月には舞台「風を打つ」の公演が控えている。
成海花音
Kanon NARUMI
2002年10月7日生まれ、神奈川県出身。
2021年、映画「ブレイブ- 群青戦記-」にて与田花音 役 でスクリーンデビュー。TOKYO 48時間映画祭出品作「Food 2.0」に出演し、最優秀主演女優賞を受賞。舞台では、2021年に「時空警察SIG-RAIDER 彷徨 ~エトランジェ~」に主演の神薙リコ(時空刑事リコ)役として出演。2023年公開予定の映画『GOLDFISH 』ではヒロインの佐伯ニコ役に抜擢、Netflixドラマ『舞妓さんちのまかないさん』に出演するなど、活躍の場を広げている。2021年には、講談社主催ミスID2021ネクストアクトレス賞を受賞している。
真矢ミキ|Miki MAYA
元宝塚歌劇団花組男役トップスター。
1995年、「エデンの東」でトップに抜擢される。
以降、宝塚史上初である篠山紀信氏による男役の写真集や武道館コンサートを成 功させるなど、独自のアイデアや今までにない自由な発想で異端性を存分に発揮し「宝塚の革命児」と話題になる。
1998年、宝塚歌劇団を退団、翌年俳優デビュー。
以降、ドラマ、映画、舞台、情報番組のMCなど幅広く活躍。
「理想の上司」「理想の母親」など各好感度・理想像調査等では常に上位にランクイン、男女問わず幅広い層より人気を集めている。
近年は、TOKYO2020オリンピック開会式で、棟梁役として存在感を発揮、NHK大河ドラマ『どうする家康』で大河初出演、愛娘・瀬名の母で気高き女性、巴役など。